2014年3月18日、クアラルンプール発北京行きのマレーシア航空MH370便が突如消息を絶ちました。乗員乗客239名はいまだ行方がわからず、1億5000ユーロ以上の費用をかけて何度も行われた大規模捜索でも何ひとつ手掛かりが見つかっていません。タイトルの『All right. Good night.』は、機長から管制塔に無線で送られた最後の一言だと言われています。                                                                                                                                                

マレーシア航空事故発生からほどなく、ドイツの作家で演出家のヘルガルド・ハウグ（Helgard Haug）は、父親が孫に向けて書いた、ほとんど同じ内容の誕生日カードを4通見つけます。一年後、父親は孫の誕生日を忘れ、やがて孫の存在も忘れていきました。いろいろなものを徐々に忘れていった父親は、最終的に認知症の診断を受けます。そして、まるで失踪した飛行機の乗客たちのように、彼女の知っている父親はこの世から消えてしまったのです。

リミニ・プロトコルの『All right. Good night.』は、マレーシア航空便の失踪と父親の認知症というふたつの出来事を軸として、不可逆な失踪と捜索、わからないものに直面した時のあがき、そういうものを舞台に映し出します。ドイツの作曲家バーバラ・モルゲンシュテルン（Barbara Morgenstern）の作曲で、ザフラーン・アンサンブル（Zafraan Ensemble）の奏による音楽が、失踪と消失の物語と絶妙に絡み合います。心の傷はいやされることがなくても、温かい音楽がいささかの慰めをもたらしてくれる作品です。