結婚指輪を付けたまま切断された手。戦死した老兵の一通の手紙。異なる背景を持つ名もなき4人の人物が、奇妙な「手の配達人」の旅をともにします。ウクライナ・ロシア戦争への思いを出発点とする不条理なミュージカル『手』は、残酷な戦争の寓話です。劇中では、戦場で出会った音楽家と農民、逃亡兵、そして1頭の「犬」が、「手を家に送り届ける」という老兵の遺言を果すために旅をします。かれらはそれぞれ傷を負い、漠とした希望を追い、再び陽の光を浴びたいと願っています。

このプログラムは、歌劇院と中国信託文教基金会が共同開催する「NTT+×中国信託 ミュージカルタレント育成プログラム」のインキュベーション作品です。脚本づくりをベースとして、創作のための資金や、台湾・韓国の業界で活躍する専門家、プロフェッショナルを集めた製作チームを用意し、質の高いオリジナルな中国語ミュージカルの育成を目指しています。『手』は、ウクライナ・ロシア戦争の初期、戦場に赴いた数多くのロシアの若者が、政府の欺瞞に対する憤りや絶望、それなのにどうすることもできない心持をショートメッセージで発信していたところに着想を得ています。『手』では、戦場の名もなき人が体験する風変わりな旅を通して、かれらがともに思いを巡らせ、ともに傷を癒し、助け合い、目の前にあるのに行きつくことができない目標に向かっていく様子を見ながら、戦争の非情さや残酷さをあらためて思うことによって、絶望の中に希望を見出すことを願います。

制作・公演／超展開策画（ハイパー・キュレーション）、嚐劇場（ボナペティ・シアター）

ジャンルを越えるアートやカルチャーの企画・制作・編集出版に取り組む。多くの分野との相互連携を通じて、枠にとらわれない文化の創出と実践を展開する。本作品では、演出の洪信恵（ホン、シンフイ）が率いる「嚐劇場」とともに公演の制作にあたる。「嚐」は「試してみる」「ボナペティ」に由来しており、オリジナルストーリーをベースに、音の実験と集団での共同制作を組み合わせている演劇集団で、音と音楽の融合や、立体的で具象化された多様なパフォーマンススタイルを模索している。