モーツァルトの生涯最後のオペラ「魔笛」は、1791年にモーツァルト自身の指揮で初演され、今でも世界で最も人気のあるオペラの古典のひとつで、さまざまなパートが映画やテレビのサウンドトラックに使われています。 モーツァルトの音楽スタイルの集大成に、通俗的な愛のプロットが加わり、愛と知的冒険の物語が描かれます。

王子タミーノは、昼夜の秩序が失われてしまった時空から、夜の女王の領地に紛れ込んでしまいます。夜の女王は王女を娶る条件として、昼の世界の大祭司ザラストロに監禁されている王女パミーナを救い出すよう言い渡します。ところが、実は女王は悪者で、大祭司こそが昼と夜の秩序をもとに戻すことができる聖者だったのです。大祭司は王子に、昼夜の秩序を取り戻すよう試練を乗り越えるよう励まし、最後には王子と王女は結ばれます。

南アフリカのモダンアートの巨匠、ウィリアム・ケントリッジが初めて演出した大型オペラです。木炭デッサンの動画、写真原理、映像反転といった手法により、娯楽性と感動に満ちた物語の中に、啓蒙主義のユートピア的理想の裏にある植民地の悲劇を隠喩します。モノクロで登場人物の個性を投影し、社会における光と闇、善と悪、権力と支配の関係を映し出します。セット、道具、衣装は、すべて東京の新国立劇場から台湾へ運ばれてきたものです。 シンガポール人の指揮者洪毅全と台湾国家交響楽団（フィルハーモニア台湾：NSO）の演奏のもと、この古典的で含意が深いオペラを上演します。

指揮／ダレル・アン

シンガポール生まれ。アジアで活躍する指揮者。2007年、ブザンソン国際若手指揮者コンクールで優勝、観客賞、オーケストラ賞の三大賞を受賞。2008年には、トスカニーニ国際指揮者コンクールで優勝し、一躍国際的に名前が知られるようになった。フランスのブルターニュ管弦楽団の音楽監督、シンガポール国際音楽フェスの芸術監督、シンガポール交響楽団の副指揮者を歴任したほか、サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団、ベルリン放送交響楽団、ミュンヘン交響楽団、ウィーン室内管弦楽団、ルクセンブルグ室內管弦楽団、コペンハーゲン・フィルハーモニー管弦楽団、バンクーバー交響楽団、NHK交響楽団等の多くの管弦楽団と共演している。

演出・舞台美術／ウィリアム・ケントリッジ

南アフリカ出身のマルチアーティスト。ビジュアルアート、アニメーション、映画、演劇作品で国際的に高く評価され、現代において最も影響力のあるアーティストの一人。エール大学、ロンドン大学等の名誉博士。高松宮殿下記念世界文化賞、スペインのアストゥリアス皇太子賞、稲盛財団の京都賞を受賞。木炭アニメーションで知られ、長年、関心を向けている南アフリカの歴史的記憶、アパルトヘイト、植民地問題などを想像力豊かな手法で作品に表現し、世界各地の美術館、アートギャラリーで個展を開催。オペラ作品には、モーツァルト「魔笛」、ショスタコーヴィチ「鼻」、ベルク「ルル」「ヴォツェック」等がある。