物語の始まりは…

長い間別々に暮らしていた三姉妹が久しぶりに雲林虎尾村の故郷に戻ってみると、そこは、おじさんやおばさんたちが年を取ってはいたが、ほかは何も変わっておらず、ただ時間だけがゆったりと流れるさびれた町のままでした。もともと実家の権利書を手に入れるためだけに帰ってきた3姉妹でしたが、大おじが亡くなる間際に言い残した「宋家の弔の歌と踊り」の後継者に500万元の賞金を与える」という遺言に関わることになってしまいます。三姉妹は臨終の際に託された遺言に全力で挑み、賞金を得るために歌や踊りを一から習い始めます。町のあちこちを歩いていると、長い間音信不通だったギャンブラーで「法師」だった父親や、優秀な霊媒師だった母親の思い出がよみがえり、長い間忘れていた家族への思いを取り戻していきます。夜の仕事の匂いをプンプンさせている長女の国珍にとって、自分に全く自信の持てないぽっちゃり次女の国美、今は性転換してアンジェラと名乗っている三女（長男）の国豪と向き合うだけでなく、自分の波乱万丈の恋とも向き合わねばなりません。しかし、国珍にとっての最大の難関は、母親の美玲の魂がこの世とあの世の境を飛び回り、さまよっているのを目にしたことです。早く大人になり自立することを強いられた国珍は、思わず、こんな無情な世の中で、私の人生はどうして貧乏くじばっかりなのかと神に問いかけます。

結局、三姉妹は、自分の人生のいろいろな心残りのために、運命に与えられた大小の試練を乗り越えるために、最後まで姿を現さない両親のために、自分たちの青春をもって踏ん張り踊ります。

演出家・曾慧誠、新鋭の作曲家・康和祥、脚本・詹傑の三人が世間の気に留めることなく手を組んだこのミュージカル『観世三姉妹』は、この土地と、そこに生きるすべての人びとへのラブレターです。

演出・曾慧誠（ツェン・ホイチェン）

ミュージカル劇団「躍演」（VM theater company）の芸術監督。ニューヨーク大学大学院音楽劇表演修士。台湾でミュージカルの演出に携わっている。「ニューヨークのミュージカルのパフォーマンスコンセプトと創作構成」に東洋の舞台芸術のエッセンスを融合させることに長けており、「自身の文化」から創作のエネルギーを得、台湾のローカルな物語を語ることで、オリジナルのミュージカル作品が観客の心を打ち、東西の文化を融合が素晴らしい化学変化を生み出している。また、台湾でのミュージカル人材の育成にも力を注いでおり、台中国立歌劇院、新竹文化局に何度も招かれ講座を企画しているほか、台北パフォーミングアーツセンターの「ミュージカル人材養成」のプログラムを4年連続で担当し、声楽、ダンス、パフォーマンス、演技などの専門的な技能訓練を通じて、プロミュージカル俳優への道を指導し、台湾ミュージカル俳優の質を高めている。

脚本／詹傑（ザン・ジエ）

テレビ、舞台劇の脚本家。2018年アジアン・カルチュラル・カウンシル（ACC）の賛助を受けニューヨークでアーティストインレジデンス交流を行い、2021-22年度の国家両庁院アーティストインレジデンスとなる。『麗晶卡拉OK的最後一夜』などのシナリオブックを出版。金鐘奨（ゴールデン・ベル・アワード）最優秀脚本賞にも数多くノミネートされ、公視テレビの長編ドラマ『刺蝟男孩　Boys Can Fly』で第49回金鐘奨（ゴールデン・ベル・アワード）最優秀脚本賞を受賞。

作曲・編曲・ピアノ演奏／康和祥（カン・ホーシャン）

幹麻醤紙創意工作室の音楽監督。最近の参加作品に躍演の『観世三姉妹』、『遺憾計画:Project R』、花声芸文x幹麻醤紙のドラマミュージカル『鬼帰代言人』、刺点創作工坊の『誰偷走了我的字？』、広芸の『北斗星下的大煙囪』、三点水のミュージカル『雨港基隆』、『Debug—筆電的使用手冊』などがある。

躍演 VMTheatre Company

2007年に設立されたミュージカル劇団「躍演VM theater company」は、中国語によるミュージカルの創作と上演に力を注いでいる。ミュージカルの歌やダンスは、芝居のセリフや動きと同じように自然で、舞台上で表現されるのは単にパフォーマンスにとどまらず人生である。創作者によって構成されたテキスト、ダンスや音を通して、パフォーマーは舞台上で人間に共通する経験を表現することで、舞台と観客との間で共感するものとなり、人びとの心を揺さぶる。

「ニューヨークのミュージカルのパフォーマンスコンセプトと創作構成」を軸に、「自身の文化」から創作のエネルギーを得、「人」の視点から出発し、近現代の観客の生活を描いた題材を見つける。また、新しい世代の音楽、ダンス、テキスト、演劇のクリエーターを積極的に組み合わせ、互いに切磋琢磨し衝突することで、ジャンルを超えた創作の火花を散らし、台湾ならではのミュージカル文化を確立している。